岡山で「国際尺八研修館（KSK）」が合宿を行なっていて何回か参加させてもらった。参加者の多くは「勝也」あるいは「龍畝」の竹を使用していた。両者の違いは横山師が最終チェックを行い微調整をしたかどうかによるそうだ。合宿の朝は準備運動ともいえる10分間の「乙ロ吹き」で始まるのだが、大勢で吹くと「倍音」がとてもよく聞こえる。誰か「甲のロ」や「甲のチ」を勢い余って吹いているのではと錯覚するほどである。「勝也」「龍畝」は倍音がよく出る尺八が多いんだなと思った。

合宿で勉強する本曲には「２段メリ」＝（半音をさらに半音下げる技法）や「チルツル」＝（替え指でラ♭ソミ♭ソという音程を繊細な音で出す技法）が頻出する。「チルツル」はでメリ加減と指孔の塞ぎ加減のバランスが難しく正しい音程で出すには修練が必要である。そもそもそのような技法がしにくい尺八もたくさんある。「龍畝」はそれらがとてもやりやすく調律されている。

研修中の休憩時間に真玉和司先生の「龍畝A管」を吹かせてもらうチャンスを得た。アゴあたりの形状が自分のものとは全然異なるので「吹きにくい」と思ったのが第一印象である。「なぜこのような大きくアゴあたりを落としているのですか」と問うと真玉先生は「メリカリし易いからです」と即答、「特にカリ戻しが素早くできる」と続けた。私が所属している都山流では１音下げる「大メリ」はめった使わず、瞬間的に１音下げて戻す「かむり」という技法もない。つまり大きくメリカリを素早く行うことがないのに対し、琴古流（横山本曲）ではそれが多用されるから必然的にアゴあたりの形状がそうなっているのだと理解した。最近では流派による尺八の差異はほとんどなくなってきているが、やはり伝統的な演奏技法に最適化した楽器は必要だと思う。ただ調律に関して言えば龍畝は伝統調律ではなく現代調律に近い。「チルツル」で正しい音程を出すためには第３孔「チ」が高めよりは「A」に正確に合わす方が音程がとりやすい。第１孔「ツ」は正確に「F」に合わすよりやや低めにしたほうが「ツの半音」が出しやすくさらに「２段メリ」もしやすい。それらのバランスが絶妙なのが「龍畝」の特徴である。「龍畝」はいまやオーダーしてから2〜３年待ち、手に入りにくいことがさらにブランド価値を高めていると思う。竹勇はブランド力では差がついてしまっているが、REIZANの改造によって楽器としての性能はかなり肉薄できたのではないかと思っている。

【諸元】長さ580mm 重さ420g 頭部直径39mm   底部直径67mm 歌口内径縦20mm 横21mm エッジ深さ4mm 最大指孔12mm

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